たとえ世の中に何が起ろうとも、そのすべてが自説を裏づける証拠であるとみなしうるような歴史観に、いったい何が欠けているのかとポパーは思索を始めた。

上記、カール・ポパー『歴史主義の貧困──社会科学の方法と実践』(久野収・市井三郎訳、中央公論社、1961年)の訳者あとがきの一節。「歴史に宿命があるという信念はまったくの迷信であり、科学的方法もしくは他のいかなる合理的方法によっても人間の歴史の行末を予測することは不可能であるという主張」(p.1)をする本書のテーマには特に興味があるはずなのだけど(ゴンブリッチの『芸術と進歩』(2019年3月11日)でも、ポパーを「私の友人」(p.91)とし、本書に肯定的に言及している)、内容は実際の敵対勢力を想定しながら1930年代から50年代にかけてのヨーロッパの時代状況・政治状況と深く絡みあっているようであり(巻頭には「歴史的命運という峻厳な法則を信じたファシストやコミュニストの犠牲となった、あらゆる信条、国籍、民族に属する無数の男女への追憶に献ぐ」という一文が掲げられている)、またかなり理論的な記述であることもあってか、どうも入り込めず、表面を読み飛ばしてしまった。いずれまたこの本を開いてみることがあるとしても、とうぶん先になりそうな気がする。