去年「多木浩二と建築写真──三人寄れば文殊の知恵」を一緒にやった大村高広さんの博士論文の公聴会がZoomで開かれていたので、軽い気持ちで覗いてみた。

論文のタイトルは「現代建築の平面形状における幾何学性と尺度──建築空間のアロメトリー性について」。しかし事前に本論を読んでおらず、その状態で発表を聴いてもなかなか取りつく島がない。やはり博士論文は甘くない。そんなところでひとつ素人的に浮かんだ疑問は、もろもろの分析や考察によって導き出された結論は、はたして大村さんにとって驚きや歓びがあるものだったのか、それともこの研究を始めようとした動機のところですでにある程度の見通しがあり、その直感を公にする意義を感じてこの論文が書かれたのか、どちらかと言うとどちらなのだろうかということ。そこがこの論文を捉えるとっかかりになるような気がする。
たとえば今日の公聴会でも発言されていた坂本一成先生の博士論文「建築での図像性とその機能」(1983年)は、その時すでに坂本先生が建築家として10年以上活動していたこともあり、その活動と連続するものとして、どちらかと言えば後者だったと思う。どちらでなければいけないということはないとしても、どちらか(あるいは両者の複合)ではあるべきという気がする。