小津安二郎の『お茶漬の味』(1952)、『早春』(1956)、『東京暮色』(1957)を観た。3作とも、去年まとめて観た小津の作品(9月13日)よりも人間の負の側面の描写が強い。社会的に規定された人間(男女/家族)の過ちやすれ違いの生々しさ、切実さは、かたちは違うとはいえ、ベルイマンやカサヴェテスの作品におけるそれにも比肩しうるかもしれない。一般に小津の映画というと、小市民の平凡な生活を淡々と描いていると思われがちだけれども、そう思われて不思議ではない安定した下地があるからこそ、より感情的な様々な事柄も際立ってくるといえるだろうか。どれも同じような形式主義的な作品に見えて、だからこそ個々の作品ごとの差異がそれぞれの存在を明確に特徴づける。一にして多、多にして一。