今回の一泊二日の日光旅行では、かつて《メルパルク日光霧降》(設計=ヴェンチューリスコット・ブラウン・アンド・アソシエイツ+丸ノ内建築事務所、1996年竣工)として建てられた「大江戸温泉物語 日光霧降」に宿泊した。

宿泊の予約をしてからしばらく後にヴェンチューリの訃報(9月20日)があり、余計に印象深い滞在になった。行ってみると、VSBAによる装飾、内装および家具は、多少くたびれつつも大部分が残っている様子(ジャポニスム的なデザインと大江戸温泉物語のコンセプトが重なるためもあるだろうか)。建築を特徴づけている看板型の装飾は、積極的に良いとは言えないものの、特別悪いとも思えない。「ヴィレッジ・ストリート」と呼ばれる3層吹き抜けのアトリウムを成り立たせるためにはそれなりに有効にも見える。この建築の『新建築』発表翌月の月評で西沢立衛さんが下のように書かれているのは、全体の批判的な論調のなかでいくぶん社交辞令の意味合いもあったかもしれないけど、確かにそこで西沢さんに指摘されているような点において、この建築は救われている気もする。

他方、この建築についてすばらしいと思ったのは、いろんなパッチワークを、大量かつ広域に張り巡らしていくその異様なほどの意志に、偽悪的な感じをまったく受けなかった点である。むしろ、何かほのぼのとした楽しさというか、優しさのようなものさえ漂っているようにも見えた。

ともかくせっかくの建築なので、なるべく長く使われ続けてほしい。日光駅から送迎バスで約15分。周辺の豊かな自然環境に加え、屋上の露天風呂やバイキング形式の料理もよかったし、宿泊費も手ごろなので、建築関係者でなくても日光での宿泊に薦められる。以下、写真5点。夏季限定のプール棟(スパ棟)のほうは外部からしか見られなかった。




 霧降のレクリエーション施設で私たちが表現したかったのは、今日の日本の庶民生活の活力とウイットである。そしてまた宿泊棟とスパ棟のデザインは、市場性があり皆に親しまれるようなものにしたかった。
 象徴的要素を用いるのは、リゾートの魅力をより幅広いものとし、その建築をより奥行のあるものにしようとする意図からだ。
 すべての建築はその構成において象徴的要素を含み、引用や連想によって表現や意味が呼び覚まされる。こういった要素が建築の性格を全体として豊かなものにするのだ。建築は必然的に、日常的、慣習的あるいは歴史的な何らかの要素によって、明示あるいは暗示的な象徴作用をもたらす。[…]
 今世紀初頭に日本で設計された帝国ホテルが時代にふさわしい純正な美を具体化し、一方で今世紀末に設計されたもうひとつのホテルが村落の情景を象徴しているのは、意味深いことかもしれない。後者のホテルに設けられたヴィレッジ・ストリートはその形態と象徴的機能において、この時代に世界にも類を見ない日本の都会生活のバイタリティと多様性、そして喜びを、拾い出し称賛している。