監督 小津安二郎

かなり昔に買ってあった、蓮實重彦『監督 小津安二郎』(ちくま学芸文庫、1992年)をざっくりと読んだ。奥付を見ると2004年の第6刷になっている(現在は増補決定版というものが出ているらしい)。昨日引用した前田英樹さんの『小津安二郎の喜び』(講談社、2016年)とは、「小津映画は日本的である/ない」という主張において対極をなしている(僕自身はその中道をとりたい)。
単行本の初版は1983年で、本を読むと、その当時までの一般的な小津安二郎理解に対する批判意識が全体に通底している。そのせいもあるのか、おそらく時代的な文脈を共有していない僕にはハイコンテクスト過ぎて捉えきれないと思えるところも少なくない。もちろん有名な本だし、徹底した分析に基づく才気走った論考には強い魅力があると思うのだけど、例えば『麦秋』(1951)という作品に対して「決定的であったのはあくまでアンパンの一語だ」(p.46)と言い切ってよいのか、実際の映画を観た限りではどうも納得できない。もっと言うと、著者自身も本当にその指摘を真実だと信じているのかどうか、疑わしく思えてしまう。ページをめくっていてふと、かつて黒沢清監督が『ビッグ・トラブル』(1986)をジョン・カサヴェテスの「大傑作」と書いていた、その言葉の信用できなさを思い出した(『Switch SPECIAL ISSUE.3 映画監督ジョン・カサヴェテス特集』1990年)。