ネットで買った古本に、当時の読者カード(愛讀者御氏名票)が挟まっていた。谷口吉郎・村田潔編『ギリシヤの文化』(大澤築地書店、1942年)。本の定価3円30銭に対し、切手代が2銭。これを今の葉書一通62円で換算すると、本の価格は10,230円相当になる。当時の本が高かったというのもあるかもしれないけど、どちらかというと当時の切手代が安かったのだろうと思う。とはいえけっこう立派な造りの本で、装幀は谷口吉郎が手がけている。
谷口吉郎の戦後の著書『雪あかり日記』(東京出版、1947年)は全10章のうちの4章分が、この『ギリシヤの文化』掲載の「シンケルの古典主義建築」という文章から採られている。最初に論文調で書かれた文を『雪あかり日記』に収録するに当たって随筆調に書き換えたのかとも思っていたけれど、初めから随筆調だった。内容としてもグリーク・リヴァイヴァルのシンケルとはいえ直接的にギリシャなわけではないし(1938〜39年の欧州滞在では時局の悪化により、谷口は結局ギリシャに行こうと思って行けなかった)、にもかかわらず他の執筆者の2倍以上の量を書いている。全体のコンセプトがよく見えない不思議な本。