『建築と日常』No.5()でアンケートに回答していただいた田所辰之助さんが、2016年に日本大学で開かれた「吉田鉄郎没後60周年記念展」のカタログを送ってくださった。A4判30ページ弱で、図面などの図版も多く載っている。この展覧会は開催当時まったく意識になかったから、僕の今回の吉田鐵郎への興味がいかに一朝一夕のものであったかに気づかされる。
特集に際して吉田鐵郎のことを調べてみて、作品というよりその人間性が知れたことが大きかった。そのことであらためて作品も身近なものに感じられてくる。僕にとって個人的にうれしい再発見だった(それは最近の谷口吉郎の再発見(1月8日1月20日)とも重なる。あるいは吉田鐵郎と谷口吉郎の両者は、その思想や常識感覚において通じるものがあるかもしれない)。
特集の巻頭に吉田鐵郎を持ってくるのはあまりに渋すぎるかという気もしていたけれど、思いのほか周りからの反響が大きい。そのなかで坂本先生との共通性を感じるという感想をいくつか聞いた。そういえば特集の制作中、吉田鐵郎を取り上げると坂本先生に伝えたとき、「お、いいね」と言われたのが予想外で印象に残っている。今回の特集では、意図していたものも意図していなかったものも含めて、色んな企画(人物)の間に響き合いが生まれていったのがよかったと思う。当初は予期していなかったけれど、吉田鐵郎は柳宗悦ともかなり重なってくる感じがあった。

ひとをびつくりさせるような建築もおもしろいかもしれない。しかし、そんなものはほんとうの天才でなければ、できるわけのものでもないし、またそんなものはそうたくさんある必要もあるまい。柄でもないのにうつかりそんなまねをして失敗すると、多くの人びとに迷惑をかけずにはすむまい。『みていやでない建築』をつくることも大切なことだ。それも決してやさしいことはあるまいが、心掛けと精進次第では、ある程度まではたれにもできそうな氣がする。