建築と日常No.5

『建築と日常』No.5()の表紙の版画「淀橋区新宿街景」(小泉癸巳男作「昭和大東京百図絵」第61景、1935年)は昭和初期の新宿通りの風景を描いたもので、高い建物は左が伊勢丹、右が三越らしい。それでふとこの頃の写真がないかとインターネットで探してみたところ、古い絵葉書の画像が見つかった。パレス食堂の看板も共通しているし、場所も時期もおそらくほぼ重なるのではないかと思う。写真があると、遠く時間を隔てているその場所のリアリティが急に強くなる。今、その同じ通りに面した紀伊國屋書店でこの雑誌が売られていることに、不思議な実感が湧いてくる。

下はたまたま同じサイトで見つけた東京駅前の空撮写真。こちらも昭和戦前で、おそらく上と同時期のものだろう。吉田鐵郎設計の真新しい東京中央郵便局(1931年竣工、2009年取り壊し)が写っている。モノクロの空撮は『吉田鉄郎建築作品集』(東海大学出版会、1968年)にもあって、特集でも載せているのだけど、着色してあるのは初めて見た。これもやはりカラーのほうが当時のリアリティが強くなる。吉田鐵郎が生きた空間が起ち上がってくるような気がする。

現代建築の樣式は個々の建築の機能、材料、構造等から必然的に生ずる建築形態を最も經濟的に最も簡明に、表現することによりて定まる。
本廳舎に於いても鐵骨鐵筋コンクリート構造法を利用して窓面積を出來るだけ大きくし、無意味な表面裝飾を廢し、純白の壁面と純鄢の枠を持つた大窓との對照によりて、明快にして芿楚な現代建築美を求めることに苦心した。
正面は周圍の諸建築と廣場との調和上、自ら多少の記念性を帶び背面はセツトバツク、避難階段、發着臺及びガラージの大庇、煙突等の必然的な建築要素によりて現代的な構成美を現出して居る。

  • 吉田鐵郎「東京中央郵便局新廳舎」『逓信協会雑誌』1933年11月号