地方都市を考える

貞包英之『地方都市を考える──「消費社会」の先端から』(花伝社、2015)を読んだ。著者の貞包さんが献本してくださったもの。「基本的に誰かから本をもらったりしたことをネットで公表するのには抵抗がある」とこのまえ書いたばかりだけど(10月31日)、あのときの保坂さんのケースにしても(10月30日)、今回のケースにしても、とくに抵抗はない。それは異なる業界の一定以上距離をおいた関係だからということもあるし、実際の本を読んでみて、それを僕に贈ってくださったことに固有の必然性が感じられるからということもあると思う。
『地方都市を考える』はまず前書きに目を通して、不思議な共感を覚えた。このまえ多木陽介さんのレクチャーを聴いた日の日記(10月26日)で書いた「問題に対する解決策よりも、まず問題を認識することこそが重要」ということが、そこで書かれていたからだ。

「地方創生」という論点に本書が違和感を抱くのは、地方の困難とその「解決」を全面に押し出す問題設定そのものに対してである。地方の困難は、そもそも本当に存在し、またそれは政策的に解消可能なものなのだろうか。「解決」を前提とする思考は、こうした疑問を封じることで、むしろ有害とさえいえる。それは何らかの政治的操作で簡単に変えられるものと地方都市で送られている暮らしをみなすことで、しばしばそこで送られている生活の切実さを無視してしまうためである。
[…]本書は地方の現在の暮らしを性急に「問題」化する一歩手前で、まずはできるだけその現状を慎重に分析していくことを目標とする。地方ではいかなる暮らしが営まれ、それはどんなメカニズムによって支えられているのか。それを真摯に探ることなしに、性急に地方社会の「問題」を「解決」しようとする試みは、結局、それを論じる政治家や学者、評論家に利益をもたらすだけのものに終わるしかないのである。

  • 貞包英之『地方都市を考える──「消費社会」の先端から』花伝社、2015年、pp.6-8

貞包さんにお目にかかったことは一度しかなく、それも一言二言交わして名刺を交換した程度なのだけど、それが3年前、件の多木陽介さんも登壇されていたシンポジウムの時だった(2012年9月28日)。この重なりは偶然なのか、あるいは必然といえる要素もあるのか。『地方都市を考える』の後書きでは、「本書を書くひとつの具体的な動機」として、多木浩二著『都市の政治学』(岩波新書、1994)が挙げられている。
地方都市の問題については断片的・表面的にしか知らなかったので、この本の内容について批評的なことは書くことができない。しかしともかくそうした共感に基づいて、知らないなりに全編を信頼して読むことができた。