ネット上でたまたま見つけた博士論文。リンク先から全文閲覧可能。

田中雄一郎「都市を読む装置としての写真──多木浩二の写真論と未整理ネガに基く考察・研究」(九州産業大学博士論文、2015年)

多木浩二の写真関係の仕事が丁寧に辿られていて、別冊『多木浩二と建築』(2013年)も参照されていた。多木浩二研究をもとにした写真論の部分については僕にはなんとも判断できないというか、そもそもまだちゃんと読んでもいないけど、少なくとも単に博士号がほしくて書かれたたぐいの論文でないことは伝わってくる。著者は1978年生まれ、武蔵野美術大学出身の写真家で、この研究をするために九州産業大学の大学院(大島洋研究室)に進学したらしい。しかし論文提出以降の活動はネットを検索してもよくわからない。この論文もせっかく公開されているのに、まったく言及がないようでもったいない。

上記、多木浩二の撮影フィルムがじつは残っていたという話(p.61)。ぜんぜん知らなかった。『建築のことばを探す 多木浩二の建築写真』(飯沼珠実編、建築の建築、2020年)を書評したときも、「いずれの写真もある時期までに処分され、今は数名の身近な建築家に預けていたそれぞれの建築の写真が残るばかりだという」と書いてしまっていた。

以下参考。1980年、建築家の入江経一さんが「祐天寺の事務所の全てを破棄してくれ」と多木浩二に頼まれたという話(2015年12月27日)。