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NHKの「映像の世紀 バタフライエフェクト」という番組の「東京 破壊と創造 関東大震災と東京大空襲」という回を観た。アントニン・レーモンドを軸にした話だけど、語り口がどうにも信用できない。この紹介文には嘘がないだろうか。

99年前、東京大学の地震計の針が振り切れた。関東大震災である。その22年後、東京は再び壊滅する。東京大空襲である。この二度の破壊と復興に深く関わったアメリカ人がいた。建築家アントニン・レーモンド。帝都復興院総裁・後藤新平との深い絆のもとで震災後の東京再建に尽力した一方で、日本の家屋と都市を知り尽くしていたレーモンドは、米軍の焼夷弾開発実験に巻き込まれていく。ふたつの破壊の運命的なつながりの物語。

震災復興については、関東大震災(1923年)の後、アメリカ大使館(1931年)と教文館ビル(1933年)の仕事を例にレーモンドが「復興に力を注いだ」と語られるのだけど、それは単にその時期に東京で建築の仕事をしたというだけにも思える。それならば数多くの建築関係者が「復興に力を注いだ」と言えてしまうことになるけれど、レーモンドを特筆すべき根拠はあるのだろうか。番組では特に紹介されていない。
戦災復興のほうも、東京で瓦礫の惨状を目の当たりにしたレーモンドが「復興には電力が不可欠と考え、ダム建設のプロジェクトを起ち上げた」と語られるのだけど、そもそも当のダムの仕事のために呼ばれたから再来日したというのが事実らしい()。これは単なる事実誤認というより、事実の捏造といったほうが近いかもしれない。
レーモンドが太平洋戦争時に米軍に協力したことはよく知られている。しかしそれは本当に「巻き込まれていく」というニュアンスだったのか(もともとレーモンドは来日以前からアメリカのスパイだったという話もある*1)。少なくともその戦争協力について、「戦争を一刻も早く終わらせる」ためという彼の自伝の言葉を引くだけで済ませているのは問題だと思う(それはアメリカが原爆投下を正当化する言葉でもある)。別にあらためてレーモンドを非難したいのではなくて、歴史の捉え方があまりにでたらめだということ。
後藤新平の震災復興計画が反対勢力の抵抗などで不十分に終わっていなければ戦時中に焼夷弾であれだけの被害を出すことはなかった、みたいな筋立てで震災と戦災を繋ぐのも根本的に無理がある気がした。地震と違って戦争には相手がいるのだから、もし焼夷弾が効かなければ敵はまた別のことをしてきただろうし、そもそも戦争がなければ木造家屋であっても戦争の被害を受けることはなかった。空襲の甚大な被害の原因を木造家屋に見ることは、戦争のより重大な責任の所在を隠蔽しているようにすら感じさせる(たぶん実際に番組製作者が戦争や政治について特別なイデオロギーを持っているということはないだろう。確かな認識がないまま、番組としてできるだけ面白い物語に歴史を仕立て上げようとした結果だと思う)。

*1:「米国立公文書館別館に保存されている「レーモンドファイル」。それによるとレーモンドは、かつて米陸軍の諜報部に所属していたという。[…]つまりレーモンド自ら、日本で反対分子を煽動して、国家転覆を図ることを軍に提案していたのだ。」(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/08100605/?all=1