「多木さんの写真は好きで、やっぱりすごいなと思います」という大橋富夫さんの言葉(『建築雑誌』2010年7月号)も、書評の引用候補にしていた。同時代の建築写真家で多木浩二の建築写真を表だって褒めている人を他に知らないけれど、プロとしての自信に裏打ちされた、大橋さんらしい実直な言葉だと思う。
下の文は、その大橋さんが亡くなったとき、『住宅建築』2018年2月号の巻末に編集部のクレジットで載った追悼文の一節。

「あんた、写真上手いね」。よく大橋さんは皆さんの写真を褒めていました。「自分はプロだからいつも80点の写真を撮らなければいけない。だけど君たちは0点のときもあるけれど、300点の写真も撮れるんだよ。羨ましいよ」と。

あえて関係づければ、多木浩二は「建築写真」のセオリーから外れたアマチュアリズムの実践として、この300点の写真を狙っていたと言えるのではないかと思う。