Amazonで『建築家・坂本一成の世界』(LIXIL出版、2016年)のクレジット表記が「坂本一成 (著), 長島明夫 (編集)」になっている。実際は坂本先生と僕の共著書なので(僕は編集と兼任)、この表記は間違っているのだけど、こうした誤解は編者としての僕がなかば望んでいたことでもあった。

建築家・坂本一成の世界

建築家・坂本一成の世界

  • 作者:坂本一成
  • 発売日: 2016/09/06
  • メディア: ハードカバー
もともとは共著書になる予定はなかった。制作の過程で、本全体にわたって編集担当の僕が合計4万字弱の解説を執筆することになり、それだと編集のクレジットを載せるだけでは責任の表記として不十分と思われたため、共著という体裁になった。けれども僕自身は、自分の名前を坂本先生の名前と等価/並列にして世に出したいという気持ちはなかった。本はあくまで坂本先生のおよそ50年の仕事をまとめた作品集だし、その作品を素材にすこし文を書いた程度で自分の名前を並べるのはおこがましい、畏れ多い、というのはまともな常人の感覚だろう。またもし僕の名前を大きく載せたなら、せっかくの作品集に不純物が混じっているように見え、販売に悪影響が出ることも容易に予想できた。本が売れなくなるというのは未知の読者にそれが届かなくなるということでもあり、なんのための出版かという話にもなりかねない。仮に編者が多木浩二のような著名な人物だったなら、その名前も宣伝材料になっただろうけれど、無名の共著者の名前を積極的に打ち出す理由は何もない。だからこの本の函や表紙には著者名が載っていない。書名に坂本先生の名前を入れたので、2人の著者名を自然に省くことが可能だった。
もっとも函や表紙では著者名より編者名を載せるかどうかのほうが問題だったかもしれない。建築の作品集としていくぶん特殊な編集をしているので、読者に対して編者の存在をそれなりに示しておく必要があるとは思っていた。ただそれでも結局、函や表紙に僕の名前を載せることはせず、qpさんによる巻頭写真16ページの後、全体の扉ページで編者としてのクレジットを示し、
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その次の見開きで、本の構成を説明する編集言()を掲載した。この短い編集言は、作品集の雑多な要素を統合し、断片的な読書体験に全体を俯瞰する視点を与えるような役割で、どうしても必要だと思っていた。