新刊『つかのまのこと』(KADOKAWA、2018年)を読んだ。小説=柴崎友香、モデル=東出昌大、写真=市橋織江。東出氏をイメージして書かれた柴崎さんの短編小説と、さらにその小説をイメージして東出氏を撮影した写真とが組み合わされている。
小説としては古い木造家屋にとりつく幽霊をめぐる話。『建築と日常』No.3-4()で再録した吉田健一の「化けもの屋敷」(1977)は住人目線だったけれど、こちらはそれと対をなすような幽霊目線。「化けもの屋敷」の「化けもの」が幽霊なのかなんなのかよく分からなかったように、この作品の「幽霊」も彼自身にさえ自分がなんなのか分からない曖昧さのなかで描かれている。リンク先のインタヴューでは、柴崎さんがこの「幽霊」のことを「場所にとりついて現世に執着ある怨霊の類ではなく、「家が意識を持っている」みたいなイメージが近い」と言われていて、そのあたりも吉田健一の「化けもの屋敷」と響き合う。

小説と写真の組み合わせは可能性を感じさせる。ただ、写真のページに東出氏が必ず写っているのは、企画の条件として動かしがたかったのかもしれないけれど、東出氏がいないページもあったほうがむしろ東出氏の存在もより引き立ってきたのではないかという気がする。また、小説の内容からしても(あるいは普通に写真集として見ても)、撮影は理想的には短期間(1日?)で済ませずに、もうすこし季節や時間に幅を持たせたほうがよかっただろうと思う。それで本の見え方もずいぶん変わってくるように思える。