「軽薄な新しいもの好きでいたい」という古谷利裕さんのブログ記事。

これは平凡なものより非凡なものを欲するという意味で、『建築と日常』No.5()に反応(反発?)して書かれた文のような気がする。去年(9月19日)qpさんと3人でKAIT工房を観に行ったとき、すこし特集の相談をしたので、古谷さんには出来上がった雑誌を送っていたのだった。ただ、古谷さんの文は「平凡建築」特集の論点と多少ずれがあるようだし、雑誌の内容を暗に批判しているというよりは、手元に届いた雑誌をぱらぱらとめくってみて、それをきっかけに浮かんできた思いを書き留めたという感じではないかと思う。まあ、たとえ古谷さんがこの文を書いた動機が『建築と日常』No.5とは無関係だったとしても、そこで書かれていることが特集の内容と関係するのは間違いない。
No.5の特集テーマである「平凡建築」という言葉は、特に厳密な概念として定義しているわけではない。特集の巻頭言(→PDF)で示しているとおり、その言葉を用いることで建築を考えるための様々な問題が浮かび上がることを期待して(また、その一風変わった言葉の響きによって未来の読者の関心を引くことを期待して)、半ば功利的に採用している。とはいえ、特集の基調には「平凡=保守=古さ」と「非凡=革新=新しさ」との対比があり、どちらかというと僕が前者に価値を見ていることは明らかだろう。この辺が「軽薄な新しいもの好きでいたい」という古谷さんとスタンスが分かれるところかもしれない。
ただし、古谷さんはそうした態度を、あくまで「作品」と呼べるようなものに対してのみ表明していると思う。実際、「新奇なものすべてにとびつくというわけではない」として、未だにガラケーを使い、はてなダイアリーを使っているというのは、僕とまったく同じだ(そのふたつはqpさんも同じだったが、最近スマホに換えたらしい())。あるいは古谷さんの普段の服装などから推察しても、建築を日常の主体的なレベルで問題にしたとき、古谷さんが平凡(保守的)なものより非凡(革新的)なものをことさら好むとは思いにくい。そして『建築と日常』では「作品」としての建築の枠組みを自明のものとせず、日常の地平で建築を捉えようとしているわけだから、必ずしも古谷さんのスタンスと食い違うことはないはずだろう。
とはいうものの、やはりある種の作品の「新しさ」に対して、古谷さんは寛容(貪欲)であり、それに比べて僕は不寛容(無頓着)である気が確かにする。それは例えば最近の『わたしたちの家』という映画に対する態度の違いに明快に表れている。たぶん作品そのものの認識としては共通するところもあると思うけど、その作品の「新しさ」(非凡さ)を僕はネガティヴに、古谷さんはポジティヴに評価しようとしている。

こうした態度の違いは、一つには古谷さんのプロ的な責任感と僕のアマチュア的な無責任さとの違いに由来すると言えそうな気がする。古谷さんは「創作の世界」を自らの世界として生きていて、その世界が発展していくことを求めている。一方、もちろん僕も「創作の世界」がより良くあればいいと思っているけれど、その世界に対しての責任感は薄く、あくまでお客さん的立場でいる。だから僕にとって一番に大事なのは、その「創作の世界」全体が向上することよりも、目の前の作品が自分にとって良いものかどうかという点になる。そもそも僕は「創作の世界」の全体を見渡せていないし、その作品が他と比べて相対的に新しくなくてもかまわない。その作品のうち何割が新しくて何割が新しくないといった分析的な観点が作品の判断に先立つことはなく、不可分な一個の作品の総体が、作品を評価する決定的な単位になる。「全体として感心はしないけれど、この部分には可能性を感じる」というような、評論家的な評価をするモチベーションがあまりない。
このことは、僕が学生の作品に対して「まだ学生なのだからこの程度で上出来だろう」というような分別ある見方があまりできないこととも通じるかもしれない。学生の作品だろうが一流のプロの作品だろうが、作品は作品として自律して現前する(そういう意味では古谷さんも、学生の作品とプロの作品を区別するようなことはないかもしれないけど)。
そういえば今年度の桑沢デザイン研究所「建築・都市概論」の第2課題は、昨年度の課題()の形式を踏襲しつつ、柳宗悦の「新しさについて」(1955)というテキストを題材にしたのだった。

 若い人は新しさを追ひ、年老ひた人は古さを慕ふ。これも必然で、そこには大いに意味があると思ふ。もし若い人が新しさに心をひかれないと、この世の進歩は後れるであらうし、もし年とつた人が昔を大事にしてくれないと、間違つた變化に走り易い。前進は元氣に滿ちてゐるからであるが、同時に無謀に流れ易く、保守は思慮深いためであるが、因循におちいり易い。それで新しさを追ふ若い人と、古さを守る年とつた人達との間には、とかく摩擦が起り、家庭でも社會でも、進歩保守のあつれきが絶えない。[後略]

  • 柳宗悦「新しさについて」『東京タイムス』1955年1月11日付

「建築・都市概論」課題②

  • [A]柳宗悦(やなぎむねよし、1889-1961)による文章「新しさについて」(『東京タイムス』1955年1月11日/所収:『柳宗悦全集第十九巻』筑摩書房、1982年)を熟読し、その内容を200字程度(誤差10字以内)で要約すること。
  • [B]上記の[A]を踏まえた上で、自分なりに「新しさ」があると思える建築を各自一つ選び、その建築がもつ「新しさ」を、400字程度(誤差10字以内)で論じること。また、その建築の写真(自分で撮影したもの、長辺1200〜1600ピクセル程度のJPEG)を1点提出すること。