久しぶりにネットオークションで購入。競争相手もなく2500円で落札。『Walker Evans: First and Last』(Harper & Row、1978年)。

ウォーカー・エバンズの写真は、事物を、道具性としての事物、意味としての事物を異形の事物に還元し、われわれにつきつけるなどといった大仰なおしつけがましい身ぶりをもってはいない。ただ日常の事物を一定の距離を置いて静かに見つめ、そのままの形でわれわれに提示する。日常性はただ日常性として切り取られ、それだけのものとして提示される。日常性が日常性として復権を要求する。そのことが逆にわれわれを不安にかり立てるのだ。

  • 中平卓馬「沈黙の中にうずくまる事物──ウォーカー・エバンズにふれて」『アサヒカメラ』1975年7月号(中平卓馬『見続ける涯に火が… 批評集成1965-1977』オシリス、2007年)

私はかつて『生きられた家』という本を書いた。それは家が人間にまとまりを与えるものであると同時に、そこに住まう人間の無意識をあらわし、またそれは象徴として人間を世界につなぐ役割をしてきたことに触れつつ、それがいまや喪失しつつあることにも言及したものであった。そのさい私はエヴァンズの室内の写真をよく知っていたが、それには一言も触れないままであった。[…]だがいくつかのエヴァンズの室内の写真は当時の私の関心にぴったりのイメージであることは承知していた。