トーベ・ヤンソン展

横浜のそごう美術館で「生誕100周年 トーベ・ヤンソン展 〜ムーミンと生きる〜」を観た(〜11/30、以降巡回)。大学に入った頃にそごうで財布を買った話は前に書いたけど(2011年5月4日)、それからさらに3年半、相変わらずその財布を使っている。
ムーミンではなくあくまでヤンソンの展覧会であるというのはタイトルが示すとおりで、この前の「MOOMIN!ムーミン展」(4月22日)とはすこし視点が違っていた。いちばんの特徴は、ヤンソンの絵画作品がそれなりの数、出品されていたことだろう。メディアでも目にしたことがないものが多くて興味深かった。ただ、そうした油絵などの絵画とムーミンの白黒の線画を比べて観てみると、やはりヤンソンの素質は線画の表現のほうに向いているように思えた。多彩な色で大きな画面を埋めている絵画作品のほうがどちらかというと平面的で(いわゆる具象・抽象に関わらず)、色や線・面が限定された線画のほうが空間をみずみずしく捉えている。もちろんそれは座標空間を前提にしたアイソメ的な立体性ではなく、人と人との関係や人と場所との関係を捉えた生気のある空間だ。
生きた事物を抽象化し、その関係性のなかで世界をまなざすヤンソンの客観的感覚。今回の展覧会はビジュアルな作品がメインだったけど、そんな客観的感覚という点で、ヤンソンの仕事のもうひとつ重要な側面である文学作品との関係がどう見いだせるのかということには非常に興味がある。海外には既にそんな研究もあるのだろうか。
もうひとつ、今回の展覧会では図録もすばらしい。テキストはあまりないけれど、ヤンソンの作品集として量的にも質的にも充実していると思う。祖父江慎さんによる上品なデザインは、派手さよりも落ち着いた雰囲気で、図版をきちんと見せるようなレイアウトがされていて印刷もよい。ムーミンの連載漫画のラフと完成形が見開きの左右に並べられているページからは、作者の思考の形式や空間の認識、制作に対する姿勢がうかがい知れるような気がする。