『建築と日常』次号のための勉強。

文化の確立にとってたんなる伝統的価値の崩壊にもまして重要なのは、一八世紀の啓蒙に引きつづいて生じ、一九世紀全体にひろがった忘却への大きな恐怖である。過去の宝とともに歴史的連続性それ自体が失われてしまう危険性はだれの目にもあきらかだった。過去という人間に固有の背景が奪われるのではないかという恐怖、影のない人間のような抽象的な亡霊になってしまうのでないかという恐怖は、偏見のなさや歴史上の珍奇な物の蒐集にたいする新しい情熱の背後にひそむ駆動力だったのであり、それは一九世紀における趣味への途方もない熱中だけではなく、現在の歴史学と文献学をうみだしたのである。まさに古来の伝統がもはや生けるものではなくなったために、文化があらゆるよき側面とばかげた側面ともども立ちあらわれることになったのである。前世紀の建築に見られる様式の欠如、過去のあらゆる様式を模倣しようとするその常軌を逸した試みは、文化と呼ばれる真に新しい現象の一面にほかならなかった。

都市の中の象徴的な場所や歴史的な場所の多くは、その都市の住民が訪れることはまれで、そこにやってくるのは大部分が旅行者である。しかし、このような場所が破壊の危険にさらされると、いままでその場所をみたことがなく、たぶん今後もみることがない人びとからも、大きな反響がまき起こる。それというのも、こうした訪問したことはないが伝聞によって知っている環境は、それが残っているというだけで安心感と連続感を与えてくれるものだからである。過去の一部分をすぐれたものとして保護することによって、未来も同じように現在を保護してくれるだろうという期待が保証されている。