atelier nishikata設計の《4 episodes》を見学。既存の住宅(木+RC+S)を耐震補強し、さらに内部を3住戸に分けるプロジェクト。1年ちょっと前に訪れた《White Room》も、このプロジェクトの一部だったらしい。改修は、離れて位置する4つの部屋を中心に行なわれていて(《White Room》がそのうちの一室)、それら部屋同士の関係をつくり出すことがひとつのテーマになっている。タイトルの《4 episodes》もそれに由来する。工事は住人が住み続けたまま、段階的に進められたという。写真は通りからの外観なので、改修の様子はほとんどうかがえない。敷地奥に急斜面で下る崖。
《White Room》を見学したときの日記では、建築の形式主義幾何学によって、世界の広がりとその中での自分の位置を感じさせると書いた(2012年11月3日)。今回はじめて訪れた他の3室も、基本的にその形式主義幾何学が通底している(正方形、対称性や中心性、縦長の開き戸のデザインなど)。ただ、どの部屋も完全に形式主義幾何学によって支配されるのではなく、それぞれにおいて、既存家屋との関係や、3世帯住居としての新たな機能が前提にされていて、それが場所の個性を生んでいる。例の講義のために読んでいた西洋建築史のテキストが、(さすがにかなり大げさな気はするものの)思い出された。なんとも日本語の意味が取りづらいのだけど。

ギリシャの宗教建築は基本的には彫塑的身体の建築である。しかしながら[ヴィンセント・]スカリの研究の結果、われわれは、一見偶然的な配置がまわりの景観とかかわった意味深い空間的機能をもっていることを理解する。幾何学やシュンメトリアという概念はたしかにギリシャの個々の建物を決定しており、また空間的諸関係を記述するのに通常用いられているのではあるが、ここでいわれるような空間構成は、このような幾何学やシュンメトリアといった概念だけでは述べることのできないことがあきらかである。[…]それはエジプト建築のようにすべての環境的レベルで同一の法則によって支配されているのではなく、空間構成の様態の多様性によって規定されている。それらの様態は、それぞれの状況に応じてさまざまな仕方で相互に作用し合って、関連する実存的諸意味の全般的システムの内で顕著な個別的価値をもつ全体を生み出している。
───クリスチャン・ノルベルグ=シュルツ『西洋の建築──空間と意味の歴史』前川道郎訳、本の友社、1998(原著1974)、p.23

一般に、住宅の改修設計、それも耐震補強を目的とするようなものでは、どうしても実用的・経済的な対応に追われがちになると思うのだけど、《4 episodes》は、そうした「生きられた家」のストーリーに乗りつつも、まさに4つの「エピソード」を挿入して、建築としての全体の骨格をつくっている(ただ、既存の家屋および庭や崖といった環境がすでに魅力的という前提条件も大きいとは思う)。
離れた位置にある4部屋を、今回は見学会ということで連続して見たけれど、4部屋は3世帯に分かれているから、今後、普段はそれほど頻繁に行き来されることはないのだろう。とはいえ一度も他の住戸を訪れることなく、ひとつの住戸に住み続けるということもないだろうから、他の住戸の経験やその場所性は、建築の形式性や幾何学性を媒介にして、別の住戸に住み続けるなかでも無意識的に想起されるように思える*1。もちろんそれは、同型の住戸が並列する一般的な集合住宅において他を類推する経験とは異なる。それぞれの「エピソード」は同一の繰り返しではなく、それぞれに個別で必然性があり、大きなストーリーの起伏のなかで響きあう。

*1:これは「《代田の町家》の危機]」(原稿PDF)で書いた、「自分がいる以外の離れた場所の存在を想像し、その存在とともに自分が在るということ」と通じる。《代田の町家》はとりあえず危機を回避したらしい。