子どものころ、布や糸やうねうねしたものを鋏でうまく切れないと、決まって母に「馬鹿と鋏は使いよう」と言われた。そのときの状況からして、僕はそのことわざの意味を「鋏を使うときもちゃんと頭を働かせないといけない」だとずっと思ってきたのだけど、この歳になり、あらためて文そのものの意味を考えてみて、その認識は間違えていることに思い当たった。僕にそのような長期にわたる誤解が生まれたということは、それを言った母自身もそのことわざを誤解していたのかもしれない。