テレビで放送されるような卓球の試合では、選手が得点のつど大声を上げてガッツポーズするのが通例になっている。昔はそうではなかった気がするのだけど、いつ頃からのことだろうか。個人競技で相手との距離が近く、威圧的・挑発的にも見えるので、最初のうちはずいぶん奇異な振る舞いに思われた。一方で、得点は得点でもボールがネットや台の端に当たってイレギュラーに入った場合、そこでは「ラッキー!」とはならずに、得点者は申し訳なさそうに軽く手を挙げ、相手に礼を示す。自分が悪いわけではないにもかかわらず、である。たとえばバレーボールなど他の競技ではそういう場面でも喜びを隠さないだろうから、普通に得点した場合の大げさなガッツポーズとの間にことさら不思議なギャップが感じられる。そっちはよくてこっちは駄目なのか、と。はたして卓球におけるそうした慣習というか新しい伝統とでも呼べそうなものは、どのように生まれ、定着したのか。日常の感覚から隔てられたその所作が、コミュニティ固有の文化の感触を伝える。
ところで大相撲では力士が声を張り上げたりガッツポーズをしたりするのはもちろん、単に顔の表情であってさえ、感情を表に出すことを戒められている。大相撲は古くからの礼儀作法に厳しく、閉鎖的・封建的と言われもする。ところがそういう力士も、取組に負けて支度部屋に引き揚げるとき、NHKのレポーターが話しかけるのを平気で無視する。より自由な雰囲気があるサッカーやテニスでも、レポーターの問いかけを無視すれば印象が悪いのではないだろうか。しかし大相撲では「こちらの問いかけにも終始無言でした」というように当たり前のごとく扱われ、まったく問題視されない。これもまた固有の文化だろう。ある場所で当たり前でないことが、ある場所では当たり前になっている。