伊藤寛さん設計の《黒水晶の家》(2004年竣工)を見学。桑沢デザイン研究所で伊藤さんが担当されている授業のなかで設けられた機会だったのだけど、たまたま僕にも声をかけてくださったので、学生たちに同行させてもらった。

《黒水晶の家》は伊藤さんご自身の住宅兼事務所で、敷地はかなり急な斜面、つづら折りになった道に挟まれるように、八角形平面の建物が多方向に向いて建っている。中心性の強い形態は、そうした敷地の環境に対応するものであるとともに、3層の内部空間を統合するものでもあるのだろう。1階の事務所と2〜3階の住宅は内部ではつながっておらず、別々の出入口を持っているのだけど、上下階ともできるだけ八角形の輪廓を視覚的に把握しやすいようなデザインがされ(間仕切りを天井まで届かせないとか)、その壁面の特徴的な仕上げ(杉板の目透かし張り)も共通している。そのことで、空間が直接つながっていなくても、同じ建物のなかにいるという感覚が強められる。
日曜(6月17日)に見学した《阿佐ヶ谷の書庫》では内外のかたち(体験)の不一致が徹底されていたのに対し、《黒水晶の家》は内外のかたち(体験)を積極的に一致させようとしている。どちらも幾何学的な形式に則りつつ、そのあり方は対照的で興味深い。ただし、《黒水晶の家》も全体を整然とした幾何学の秩序で覆うわけではなく、素材や造作にはかなりラフな印象を受ける。極端に言えば山小屋のようなイメージで、それは豊富な緑に囲まれたこの土地の場所性を反映しているのかもしれない。以下、写真2点。

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