2014年から毎年開催されているという見学会で、《阿佐ヶ谷の書庫》(2013年竣工)を見学させていただいた。設計者は、『建築と日常』No.5()で量産住宅〈fca〉(2017年12月3日)をめぐってお話をうかがった堀部安嗣さん。

まず外観がなんともいえずチャーミングだ。8坪の角地に可能な最大限のヴォリュームをRC造で立ち上げている。内部はありえないほどコンクリートが充填されたマッシヴなヴォリュームのはずなのに(窓もわずか)、道路に面した姿は、斜線制限で切り取られた頂部にガルバリウム鋼板の屋根が載り、木造のスケール感で控えめな存在感を放っている。コンクリートは小豆色で塗られたそうだけど、時間が経って変色したのか、堀部事務所のHPにある写真の色よりも薄く、渋い紫色に見える。その色も「いかにもRC造」という感じでなくてよい。目地による分節や打ち継ぎのわずかな凹凸、表面の微妙なムラが、遠目から見たときのコンクリートの重さを打ち消しつつ、繊細な上品さをかもし出している。
そしてその外観と中に入って体験する内部空間が、形態上まったく一致していないのが面白い。内部は全体のコンクリートのヴォリュームからシリンダー状のヴォイド(大1つ小2つ)がくり抜かれるようにしてできた、井戸の中のような空間。平面図は日本の建築ではまず見ないほどの大きな割合をポシェ(壁体の部分)が占めている(外部からの遮音が意図されている)。外部と内部がそれぞれ別の論理でできあがっているようでいて、しかしそれぞれがそれぞれでなければならない必然性で固く結ばれてもいる。物体をくり抜いて空間をつくるというアイデアそのものはそこまで珍しくはないかもしれないけれど、それをこの規模の市井の建築で、書庫・書斎の機能性や象徴性、都市における建ち方、そして幾何学的合理性や空間の身体性まできちんと折り合いを付けて実現させるところが、堀部さんの建築の特質なのだと思う。書棚のモデュールによって厳密に組み立てられた幾何学性の強い空間は、物書きの書斎に特有の混沌とした秩序は感じさせず、驚くほど整然としていた。