先日動画を公開()した『建築家・坂本一成の世界』刊行記念パーティーのスピーチで、富永讓さんに「百科事典のような本だ」と評された。じつは百科事典という指摘自体はすこし前にお目にかかったときにも伺っていたのだけど、そのときは必ずしも褒め言葉ではないのかなと思っていた。百科事典という言葉には、マニアックに情報が詰め込まれた本(その大部分をしっかり読むことはない)という響きがある。けれどもパーティーのスピーチであらためて詳しく聞いてみると、ネガティヴな印象は僕の思い過ごしだった。富永さんは「どこからでも読めるし、読むとそこに引き込まれていく」と仰ってくださっていて、それは本を作っているときに僕が目指していたことでもあった。
『建築家・坂本一成の世界』の制作に当たっては、初期段階で、既刊の坂本先生の作品集を検討した。新しく作る本が坂本建築を網羅する決定版を目指す以上、過去に出版された本との重複は避けられないけれど、それらと具体的にどういう関係で位置づけるかは、まず考えなければならないことだったように思う。何冊かある既刊本のうち、やはり(今回の制作にとって)最も重要だったのは、2001年刊行の『坂本一成 住宅―日常の詩学』(TOTO出版)だと言える。ギャラリー・間での個展に際して、おそらくそこで初めて坂本先生の仕事の全体像が描かれ、その後の作品集(展覧会カタログ)も基本的にこの本の枠組みを踏襲している。実際、『坂本一成 住宅―日常の詩学』の構成を相対化するなかで、新しく作るべき本の骨格が見えてきたところがあった。以下は僕が実物の本から起こした『坂本一成 住宅―日常の詩学』の台割と、最終段階の『建築家・坂本一成の世界』の台割台割は本の全体構成を示す、建築で言うと平面図のようなもの)。

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