なんの予備知識もないまま、宮崎夏次系という漫画家の漫画『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』(講談社、2014)を読んだ。全9話の短編集。日常に垣間見える非日常性というか、人間や人間関係の深くて暗い部分を詩的にすくい上げようとしていると言えるだろうか。人によってはどれも理解の範囲を超えた気味の悪い話に思えるかもしれないし、ピタッとはまる人にとっては感情を激しく揺さぶられる作品かもしれない。僕はその中間というか、世界観にはある程度共感しつつも、その作品世界は不思議と浅く感じられた。おそらくこの作品の世界は、外部から選択的に採用されたようなものではなく、作者の内部から生まれてきたものだろう。そう思える個性・固有性は感じる。しかし、もしそのように作者の人生の内的な必然性を伴って生まれてきた世界なら、もっと真に迫ってきてもよいはずではないか。おかしな言い方だけど、辻褄が合わないという気がした。
知らないジャンルの気軽さで当てずっぽうに推測してみると、この作者にとって今回の短編集が3冊目の単行本らしいので、それまでの人生で熟成されてきた固有の世界のエッセンスが薄まっているということがあるかもしれない。仕事としてコンスタントに作品を世に出し続けなければいけない、そんな職業上の要請は、漫画(と大衆音楽)は他の創作の分野よりも強そうな気がする。でもかといって、抜け殻のようなルーティンの単調さに陥るわけではなく、技術やセンスで、作品としての質を保っている/展開させようとしているようにも思う。この作品の前後の作品を読めば、もうすこしはっきりと捉えられるかもしれない。

読み終わったあとにウィキペディアを見てみたら、「宮崎 夏次系 (みやざき なつじけい)は、日本の漫画家。女性。」と書かれていて、なんとなく男の人を想像していたので、それも不思議な感じだった。