ホン・サンスの新作『3人のアンヌ』(2012)をシネマート新宿で観た。『アバンチュールはパリで』(2008)以降の4作品(『よく知りもしないくせに』『教授とわたし、そして映画』『ハハハ』『次の朝は他人』)は観ていないのだけど、それ以前の作品からなにかが大きく変わったという印象はない。ある若者が構想する映画のシナリオ3案が順番に思い浮かべられていくという設定。それによって、フィクショナルな宙吊りの感覚が映画の前提にされる。3つのストーリーは、登場する主な役者や舞台は同じで、役柄が多少異なったり異なっていなかったりするヴァリエーションとしてある。オムニバス映画のように、映画の尺としてはきっちり区切られているのだけど、内容的には鑑賞体験のなかでその境界が打ち消されて曖昧になっていく。並列なのか入れ子なのか重層なのか、関係は動的に変化・生成していく。3パターンによって一人の人物の心理を精神分析的に表現している(『アバンチュールはパリで』のラストのように)とも思えるけれど、その意味が絶対ではない。3部構成や限定された役者陣という形式的・幾何学的な構成のなかで、部分がさまざまに響き合う。(こういう構成論的なことも非常に興味深いのだけど、ホン・サンスの映画が人生に触れてくるのは、本当はここから先のもっと具体的なレベルにおいてだと思う。しかしそこはまだうまく書けそうにない。)