長谷川さんの文章には評論家としての直接的な批判の言葉が少なからず含まれているけれど、いま論文集のために校正を進めている坂本先生の文章も、意識して読めば明らかに師匠である篠原一男を否定するような主張がされていて、長谷川さんと同時代の空気が感じられる。坂本先生と篠原一男の関係が実際にどういう雰囲気だったのかは知らないけど、日常的な人間関係が悪かったということはないはずだし、坂本先生のふだんの控えめな性格も考えると、この毅然とした筆致は驚きですらある。論文自体は十分に客観的であり、かつ坂本先生個人の志向としても必然性がある内容には違いない。しかしそれに加えてやはり当時の実際的な状況が思考に力強さを与えていることも確かに感じられる。