ホン・サンスの『イントロダクション』(2020)と『あなたの顔の前に』(2021)を新宿シネマカリテで、2日に分けて観た。いつもながら味わい深い作品。ただすこし新しい印象として、1961年生まれ(1960年という表記もある)のホン・サンスがこの時期に60歳を迎えたという、作者の年齢のことを感じさせた。近年の作品の中心的存在だったキム・ミニ(それぞれの物語のなかでは年少者として描かれることが多かったと思う)が主人公よりも年長の人物として端役で出ていることが象徴的に思えるのだけど(『イントロダクション』)、自らの年齢を自覚し、若い世代あるいは若い時代への成熟したまなざしが作品の軸に据えられるという、そんなフェーズに移ったような気がする。これはもしかしたら次作で簡単に覆される印象かもしれないけど、一人の作家の軌跡を自分もその時間ずっと生きながら辿ってきたからこそ抱く想念であり、同時代にそのような作家がいることの価値を思う。