ホン・サンス『逃げた女』(2020)を新宿シネマカリテで観た。脂が乗り切ったというべきか抜け落ちたというべきか、ともかくまた一つの達成だと思う。
主人公が訪れる3つの建物はどれもモダンなデザインで、空間的な個性は薄いはずなのだけど、それぞれの知人の家あるいは領域を訪ねているという感じが強くする(内部と外部の明確な対比が印象的)。そこでの会話や出来事はとりとめないながらも人生の意味を暗示するかのようであり、いつものような操作的な時空間の構成はなく、ただ静かに流れる時間を豊かに描くことで映画を成立させるような境地に至ったのかと思っていたところが、ふいに抑制されたドラマチックな展開を見せはじめ、全体が新たに深められた意味によって記憶のなかでゆるやかに再統合される。映画のトーンやテーマは(ロメールというより)少しベルイマンを思わせる。
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