すでに多くの人が言っているとおり、放送中のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』がよい。ストーリー設定やキャスティング(役者の実力や役柄との相性よりも世俗的な人気度を優先する)だけが特化されるというテレビドラマにありがちなことがなく、コミカルでありながらそれぞれの人物や場面が確かな実在感をもち、様々な要素や部分/全体が必ずしも主従関係を結ばないまま響き合っている。的確に表現できないけど、いかにもトレンディドラマ的な非現実的な設定(バツ3、オシャレな職業、それなりにリッチな暮らし……)や、毎回冒頭にその回のできごとを予告したり主人公がカメラ目線で話しかけたりするフィクショナルな側面が、ドラマのリアルな部分をうまく引き立たせているように思える。
去年『コタキ兄弟と四苦八苦』を観ていたときには「テレビでも深夜ならこれだけのことができるのか」と思ったけど(2020年4月11日)、『大豆田とわ子と三人の元夫』は深夜ドラマにしばしば見られるサブカルっぽさもなく(あるかもしれないがそれに寄りかからず)、「ゴールデンならこれだけのことができるのか」と思わせる(2作の間に観た『MIU404』は『コタキ兄弟と四苦八苦』と同じ脚本家だったけど、「やはりゴールデンだとこうなってしまうのか」という印象だった)。ポップなものの豊穣さ。脚本(ストーリー/セリフ)、キャスティング(単に適材適所というだけでなく、有名/無名あるいはプロ/非プロを組み合わせるその振る舞いまで含めて)、演出、演技、音楽、思いつくかぎりの要素において非の打ちどころがなく、まったくよい意味で完成度が高い。
最初観たとき、どことなく岡本喜八の映画『江分利満氏の優雅な生活』(1963)を思い起こした。さすがにそれは僕の偏向だと思ったけれど(そもそも映画の内容もあまり覚えていない)、ドラマを観ているうち、その社会その時代における平均人・常識人の生きかたを浮かび上がらすという点で、似ているかどうかはともかく共通するところはある気がしてきた。とわ子の平凡な真っ当さが尊い。