f:id:richeamateur:20210410102437j:plain
青梅線で御嶽という駅まで行き、そこから歩いて玉堂美術館(設計=吉田五十八、1961年竣工)と青梅市吉川英治記念館(設計=谷口吉郎、1976年竣工)を訪問した。本当は先日訪れた乗泉寺(1月14日)の八王子別院(設計=谷口吉郎、1971年竣工)にも行くつもりがあったのだけど、思ったより時間が早く過ぎ、すでに吉川英治記念館に向かう途中で見切りを付けた。あまり詰め込んで観てもよいことはない。


f:id:richeamateur:20210410120132j:plain
f:id:richeamateur:20210410113908j:plain
f:id:richeamateur:20210410111815j:plain
f:id:richeamateur:20210410112004j:plain
f:id:richeamateur:20210410110723j:plain
玉堂美術館は、吉田五十八いわく剛軟両面がある川合玉堂(1873-1957)の画風に倣い、飛騨の民家と仏教寺院を混然一体としたという大スケールの外観。立面の大きさと平面の小ささがずれとして体験され、観念の広がりを生むような印象がある。眼下の多摩川の渓流とのあいだには塀を築き、周囲の自然を借景にしている(庭園は中島健による)。渡り廊下で繋がれる別棟に玉堂の画室を再現。


f:id:richeamateur:20210410152344j:plain
f:id:richeamateur:20210410152405j:plain
f:id:richeamateur:20210410150505j:plain
f:id:richeamateur:20210410145143j:plain
吉川英治記念館では実際に作家(1892-1962)が暮らした広い敷地の一角に、生前親交があった谷口吉郎が展示館を設計している(農家を改装した既存の母屋や洋館風の書斎、庭も管理が行き届いていて見応えがあった)。玉堂美術館とは逆に、丘の上に建てられながらも平屋で高さを抑え、複数の屋根に分節しながら建物を横に下に連続させていくという構成。谷口は渋谷の乗泉寺や東京工業大学創立70周年記念講堂(2015年11月11日)でも、傾斜した敷地においてその高所にエントランスを配し、ファサードの高さを抑えて水平性を強調しつつ、地面が低くなっている側面や裏側に建物のヴォリュームや垂直性が表れてくるようなデザインをしている。ただ、吉川英治記念館と玉堂美術館の対照的なあり方は、ふたりの建築家のちがいというより、ここでは敷地のちがいが大きいだろう。特に親交が深かったのかどうか知らないけど、谷口は10歳上の吉田五十八について何度か文章を書いている。建築として共感するところもあったのかもしれない。

 よく西洋建築で、「建築は凍れる音楽」といわれる。これはゲーテの言葉とされているが、そんなゲーテ的言辞によれば、吉田さんの新数寄屋は「凍れる長唄」といってよかろう。吉田さんの意匠には、まさしく、そんな美しさが造形的に演奏されている。
[…]
 このような藤井[厚二]さんや、堀口[捨己]さんの作家態度にくらべて、吉田五十八さんの造型は、もっと感性的だといえる。同じ日本建築の近代化であっても、学究とか、哲理というものよりも、もっとジカに、その美にホレこんで、それを手塩にかけて新しく磨き上げようとする、二十年も三十年も年季をいれた職人を使って、その職人気質を十分に活かし、更に自己の近代感覚によって一層洗練させようとする。学究的理論よりも、外国崇拝よりも、下町ッ子らしいキレイ好きのカンで、日本の京都や奈良の美を近代的に磨こうとするのが、この建築家の本領でなかろうか。

  • 谷口吉郎「吉田五十八」『芸術新潮』1954年8月号(『谷口吉郎著作集 第三巻 建築随想』淡交社、1981年)

玉堂美術館から吉川英治記念館へは歩いて1時間ほど。多摩川沿いの遊歩道がすばらしい。ちょうど今から5月くらいまでがいちばんよい季節ではないかと思う。以下、写真8点。
f:id:richeamateur:20210410132737j:plain
f:id:richeamateur:20210410131335j:plain
f:id:richeamateur:20210410133422j:plain
f:id:richeamateur:20210410133709j:plain
f:id:richeamateur:20210410133804j:plain
f:id:richeamateur:20210410133910j:plain
f:id:richeamateur:20210410133931j:plain
f:id:richeamateur:20210410165331j:plain