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先日(9月2日)訪れた横網町公園内で2001年に建設された「東京空襲犠牲者を追悼し平和を祈念する碑」。名のある彫刻家の作らしい。しかし、いかにもずり落ちそうな石の積み方(もちろん実際は見た目どおりにずり落ちるわけではないだろう)は、建築の視点で見ると感心しない。人類が地球の重力のなかでどれだけ昔から石を積んできたのか知らないけど、この建造物はそうやって自然と向き合ってきた人間の営みを足蹴にしているような感じがしてしまう。それは戦災のモニュメントとしての意味と直接は関係しない話だとしても、人間の歴史や生命をまなざす地平において、根本的にはつながっていることだろう。以下、香山壽夫『建築のポートレート』(LIXIL出版、2017年)より、アイルランドのスケリッグ・マイケルの修道院(4〜12世紀)についての写真と文。
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 古代ローマの文明から遠く離れていたケルトの人々は、長い間、アーチを築く技術を知らなかった。従ってその建物は、石器時代と大差ない、空積みの石造でできている。修道士たちは、絶えず崩れる石の積み直しの労働に追われていたに違いない。苛酷な環境の中での、苛酷な労働。しかし、修道士たちは、それに立ち向かうことこそが、神に近づくことだと思っていたのだろう。そう信じて生きた人々の精神を、この建築は語りかける。

  • 香山壽夫『建築のポートレート』LIXIL出版、2017年、p.79