f:id:richeamateur:20160501140740j:plain
3年ほど前に撮影した《代田の町家》(設計=坂本一成、1976年竣工)の裏手側の写真。『建築家・坂本一成の世界』(LIXIL出版、2016年)()に掲載したこの写真が、新建築社写真部による写真2点(正面外観と中庭)とともに、武蔵野美術大学の2019年度公募制推薦入学試験(造形学部建築学科)の問題に使われたらしい。

❷ 表現力テスト(2時間)
【問題】配付した写真(コピー)は、あるひとつの建物の外観を異なるアングルから撮影したものです。
1 . 写真をよく観察し、以下について600字以内で述べなさい。このうち③は、自由な想像を加えてよい。
① この建物の立地場所と周辺環境
② 建物の特徴、およびその特徴がもたらす建物の長所
③ どんな人達がどのようにこの建物に住む、あるいは使うか
2 . 想像したこの建物の内観をスケッチ等の図で表現しなさい。窓や扉ごしに見える景色も描くこと。人物の有無は自由。
 
❸ 審査基準・評価ポイント
a)受験生に期待すること・採点基準
受験生に期待することは、学生募集要項(建築学科)の通りです。表現力テストでは以下の点を評価します。
・観察力(対象の特徴を精確に捉える)
・分析力(読み取った状況を総合化する)
・想像力(観察と分析をもとに優れた形と空間を構想する)
・描写力(構想したイメージを定着し伝える)
・時間管理能力(制限時間内で回答をまとめる)
 

この写真は『建築家・坂本一成の世界』の編集作業中にそそくさと撮りに行ったもので(メインで使用した竣工当時の多木さんによるモノクロ写真()に建物の裏側を写したカットがなかったことに加え、カラー写真で外観の銀色を示しつつ、近年の改修のことにも触れておきたかった)、自分でもあまり「良い写真」とは思っていないけれど、《改修 代田の町家》が発表された『新建築住宅特集』2015年2月号の掲載写真だけで済ませずにわざわざこの写真が使われたのは、建物の建ち方を問うような試験問題において、この写真になんらかの有用性があったのだと思ってよいかもしれない。
問題自体がとてもよいものだと思った。僕自身はすでに《代田の町家》のことをかなり知ってしまっているけれど、知識に頼らず建築をじかに捉える能力を試すのに的確な問いで、高校生相手にはもったいないような気さえする(仮に建築のプロに対してであっても、その人の能力や建築の認識の程度をさらけ出させてしまう問いではないだろうか)。現実の条件に対応しながら極めて緻密に組み立てられているこの建築だからこそ成り立つ問いでもあるだろう。