柴崎友香『公園へ行かないか? 火曜日に』(新潮社、2018年)を読んだ。柴崎さん自身のアメリカでの3ヶ月間の滞在記。というと語弊があるのかもしれなくて、本の帯にはあくまで「連作小説集」と書かれている。しかしやはり一般的にカテゴライズするならエッセイの類いになる内容だろう。なぜ小説集とされているのか、その真意は分からないけれど、エッセイと表記すると、いかにも事実と相違ないもの、あるいは私的なもの、気軽な雑記と思い込まれてしまう窮屈さはあるかもしれない。ただ、この作品は根本的な意味でのessai(試み)の特質をよく備えているようにも思われる。ナショナリティや歴史や時代や文化や世界情勢といった超越的・観念的に認識されているものと、現実の人や言葉や風景や食べ物などの経験とを丁寧にすりあわせ、ある世界の断片を自分を媒介にして事実として記述する試み。それは私的でありながら公的であり、主観的でありながら客観的であるような文章だと思う。