山下敦弘・今泉力哉『午前3時の無法地帯』(2013)、山下敦弘『味園ユニバース』(2015)、同『オーバー・フェンス』(2016)をDVDで観た。『オーバー・フェンス』は、三宅唱『きみの鳥はうたえる』(10月1日)と同じく佐藤泰志(1949-1990)の小説が原作。どちらの映画もそれぞれの監督らしい作品になっているとともに、同じ原作者による作品であることが観ていて確かに察せられる。若さをめぐる儚い空気感というか。
ただ、『きみの鳥はうたえる』を観た後だと、『オーバー・フェンス』は登場人物が今一その作品世界に息づいていないような気もしてしまった。主役のオダギリジョーの浮き世離れした感じはそもそもミスキャストのように思えるし(義理の弟役だった吉岡睦雄のような人を主役にして映画を成り立たせられたら、本当に傑作になったかもしれない)、蒼井優は大女優らしい貫禄すら感じさせて、それはそれで魅力的だとはいえ、作品全体のあり方と調和していたかというとどうかと思う(蒼井優に関しては演技や演出というより脚本レベルの問題かもしれない)。『苦役列車』(2012)の森山未來や『もらとりあむタマ子』(2013)の前田敦子、今回観た『午前3時の無法地帯』の本田翼、『味園ユニバース』の渋谷すばるなど、山下敦弘は個々の役者の特性を引きだし、有機的・全一的な作品として昇華させることに長けた監督だろうし、この作品も他の人物たちの生かし方はみなよいと思うのだけど(『オーバー・フェンス』も『きみの鳥はうたえる』も、脇役にすぎない嫌なやつを嫌なやつとして生々しく描きつつ、その存在を認めて居場所を与える)、主役のふたりに妙に引っかかってしまった。
とはいえ今回観た3作のなかでは『オーバー・フェンス』がいちばん見応えがあると言えると思う。『味園ユニバース』も悪くはなかったし(物語がやや大味だった)、『午前3時の無法地帯』は共同監督であるにしても、3作のうち最も山下敦弘らしい作品と言えるかもしれない(すこし長すぎると思ったら、そもそも全12話のウェブドラマだったらしい)。