ホン・サンス夜の浜辺でひとり』(2017)を下高井戸シネマで観た。近年のホン・サンスの映画のなかでは比較的オーソドックスなつくりだと思う。醍醐味である群像劇の度合いも低く、キム・ミニ演じる人物が主人公として映画の中心に存在している。また、『正しい日 間違えた日』(7月31日)や『クレアのカメラ』(8月3日)と共通するウディ・アレン的自己投影(フィクションとリアルの重ね合わせ)、つまり映画監督と女優の不倫ネタがとりわけ作品の核に近いところにあり、劇中の映画監督が自作に対して言っていたのと同じように、ホン・サンスの個人的な作品という印象を生んでいる。人間の形式性や人物同士の幾何学的な関係性よりも、複雑なキャラクターをもつ主人公の内面を描くことが主になっていて、そうするとこの作品は、その主人公と同じ女性のほうが特に共感しやすいかもしれない。