仕事先でチケットをいただいたので、アルノー・デプレシャン『あの頃エッフェル塔の下で』(2015)と、マノエル・ド・オリヴェイラ『アンジェリカの微笑み』(2010)をBunkamuraル・シネマで観た。『あの頃エッフェル塔の下で』も悪くはなかったけど、あまり自分とは関係ないという感じがする。『アンジェリカの微笑み』は、まるで映画という媒体が誕生したばかりの表現であるかのような瑞々しさ。物語の展開と関わりなく、それぞれのシーンが生きている。単純かつ原初的な、古典のおもむき。1920年代のシュルレアリストたちが映画に惹きつけられたことを思い起こさせる。
ちょうど最新の『NOBODY』44号でデプレシャンとオリヴェイラの特集が組まれていた。いくつか読んだうち、『アンジェリカの微笑み』について書かれた奥平詩野氏の「終わりのような全ての感動から、始まりの白紙のような楽観へ」に感心した。作品を安易に歴史的(相対的)に位置づけるようなことをせず、他の固有名にも触れずに、作品そのもの(あるいは自身の作品体験)に丁寧に向き合って文が書かれている。それは作品とそれを観た自分の実感を信じている人の態度だろう。主観に根ざした客観。ああ確かに僕が観たのはこういう映画だったなと思いつつ、もう一度その映画を観たくなる。