前川國男設計の神奈川県立図書館・音楽堂(1954)。音楽ホールの客席の傾斜がそのまま下階のホワイエの天井の傾斜になっている。ホワイエは三方がガラス張りで、隣接する図書館や外部空間との関係のなかで成立している。オブジェクティヴな建築のあり方よりも、空間の構成による建築的環境の形成を重視していたことがうかがえる。
建築が発表された雑誌に篠原一男(29歳)のコメントが載っていた。批判的な指摘もあったけれど、以下、全体の印象。

広い前庭と、2つの庭が目の前に現われたとき、これはきれいだと思つた。このように素直に人をひきつける建築を知らない。ディテールを見てあるいたときも、この印象は変らなかつた。人を驚かすだけの手法、そういうものは見当らない。蓄積された近代建築の手法が、そのままフォルムをもつた、そんな感じ。近代建築がその意識過剰をぬぐい捨てて、やつとこの国の風土と民衆のものになつた。
───5人の会(増沢洵・みねぎしやすお・篠原一男/欠席:内田祥哉・大髙正人)「蓄積された技術の成果を検討する」『新建築』1955年1月号

今回は、音楽堂建築見学会vol.6ということで訪れた。音楽堂の舞台裏まで見学できたほか、青木淳さんと松隈洋さんのトーク、西山まりえさんによる音響体感ミニ・コンサートがあった。ホールの音響は、開館当時「東洋一の響き」と絶賛されたということなのだけど、普段コンサートホールでクラシック音楽を聴くことがないので、なんとも判断できない。矢野顕子さんの『音楽堂』(2010)というピアノ弾き語りのアルバムは、このホールを使ってレコーディングされたらしく、リンク先のサイトで、その様子が動画で公開されている。来月にはアンドラーシュ・シフのリサイタルがあるらしい。